突発性ヴァンパイア・ガール!
「何を撒いたの?」


吉崎君は真顔で答えた。


「豆」


「豆!?」


撒かれた粒をよく見ると、確かにそれは大豆であった。


「豆って、なんで?なんでそんなものを撒いたの?」


出来る限り小さな声で尋ねると、吉崎君は答えてくれた。


「あれは時間稼ぎだ」


「時間稼ぎ?」


「吸血鬼をこの場に留めるためのな。吸血鬼は粒を見ると数えずにはいられない性質だから」


「吸血鬼って神経質なの?」


なんだか吸血鬼に対するイメージが変わったような気がする。

吸血鬼って血を吸って、日光やニンニクに弱いってイメージしかなかった。


「言っておくけどな、効果は請け合いだぞ」


「知らないよ、そんなの!」


しかし私のツッコミを軽く無視して、吉崎君は子どもの方を見た。


「ほら、な」


私も子どもの方を見ると確かに子どもは吉崎君が撒いた大豆を一つ一つ数えていた。


吉崎君は再び子どもに銃口を向け、親指でハンマーを起こした。

そして引き金を人差し指をかけた。


「誰に咎められようと、許されないとしても、認められなくても構わない。俺は俺の信念を貫く。それだけだ」


吉崎君は柱の陰から、子どもの前へと飛び出した。


そして、何の戸惑いも見せずに引き金を引いた。


私は思わずぎゅっと目を閉じた。


その直後、パン、と乾いた音が響いた。


目を開けると先ほどまで大豆を数えていた子どもが力なく倒れていた。


そしてしばらくすると子どもの体がサラサラと崩れていった。

それはまるで砂の城が波にさらわれて崩れていくようだった。


「どう、して」


「あの子供を貫いた弾丸がシルバーブレットだからだ」


吉崎君は男の子が砂のように崩れ去って無くなってしまった後に残った銀色の弾丸を拾いながら言った。


「シルバーブレットは十字架を溶かして作った銀の弾丸。吸血鬼の弱点の一つだ」


私は吉崎君の様子をじっと見ながら言った。


「罪悪感とか、ないの?」


< 38 / 119 >

この作品をシェア

pagetop