突発性ヴァンパイア・ガール!
すっかり陽が落ちて夕闇に染まりつつある街の中を、吉崎君は私を背負って歩く。


特に会話などなかった。


吉崎君と私は話すことはあるけれど、仲がいいわけではない。


何もすることがなく、あたりを見渡した。


見知らぬ街の夕暮れ。


道路の信号、標識。


黄色と黒の遮断機、踏切。


商店やスーパー。


家々の並び方。


私の住む街と同じところもあるけれど、やっぱり違う。


なんだか幻想世界に迷い込んだような、彷徨っているような、不思議な感覚があった。


空は刻一刻とその青を濃くしていく。


街灯が一つ、また一つと明かりを灯してゆく。



「ねぇ」

呟くように、吐き出すように、私は問いかけた。


「なんだ」とそっけない返事が返ってきた。



「ありがとう。

助けてくれて、おんぶしてくれて」



吉崎君は「別に」と言った。


「当然のことをしたまでだ」


「うん、そういうと思った」


吉崎君のことだから、素直に「どういたしまして」なんて言う訳がないと思っていた。


「でも、感謝してるの。

ありがとう」


あっそ。


こっちが感謝の気持ちをこめてありがとうと言ったのに、この返事。


なんだかなあ、と思いながら、でも吉崎君らしい、とも思った。


憎たらしいヤツ、そう思ったのに、口元には笑みが宿っていた。


「あのさ」


「今度はなんだ」


吉崎君はため息を吐いた。


「もういいよ。背負ってくれなくて、いいよ。もう歩けるから」


そういうと吉崎君は降ろしてくれた。


それから私は吉崎君の横を歩く。
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