突発性ヴァンパイア・ガール!
本当に、飛んだ。

男のうち1人が飛んで、地面に倒れたんだ。


「おい!てめぇ、何しやがった?!」


男の後ろに立っていたのは。


「何って、蹴っただけだよ」


柔らかそうな茶髪に、優しそうな瞳。


黒渕眼鏡をかけた、同い年くらいの男の子だった。


「それより、女の子に暴力なんて本当に最低だよね。自分が恥ずかしいと思わないの?」


「んだとてめぇ!」


私の腕を掴んでいた男はその手を離し、拳を握ると、そのまま眼鏡の男の子に殴りかかった。


しかし眼鏡の男の子は逆にその腕を掴み引っ張るとパンチをお見舞いして、ナンパしてきた男は倒れてしまった。


「怪我はない?」


優しく微笑まれた。


「は、はい...」


何がなんだか分からず、しどろもどろで答えると、その男の子は「良かった」とひどく安心したような顔をした。


その穏やかな笑顔にキュンと胸が高鳴る。



「そっちの黒髪の子も...って、亜美!」


優しそうな目が見開かれた。


「うそ、侑也(ゆうや)じゃない!

どうしてここに?というか、いつこっちに着いたのよ?」


亜美は口元に手を当てたまま、彼に駆け寄った。


「さっきこっちに着いたところなんだ。荷物も無事に届いて一段落したから、町を見て回っていたんだよ」


「じゃあ、明日からになるの?」


「そうだね」


2人きりで会話を進められて1人置いてきぼりを喰らわされていた私は、「ちょ、ちょっと待って」と会話の中に入った。


「えっと、ふ、2人は知り合いなの?」


2人とも頷いた。


「だって、幼馴染みだもの」


「ずっと前から亜美のことはよく知っているよ」


亜美に幼馴染みがいたとは知らなかった。


しかもよくよく見ると、かなり整った顔立ちをしているじゃないか!


イケメンな幼馴染み、しかも性格まで良いだなんて。


何それ、羨ましい!


そんなことを思っていると、彼が近づいてきた。


「自己紹介がまだだったね」


まるで王子様がお姫様の手を取るように、男の子は私の手を取ると、そのまま口元に引き寄せてキスをした。


私は目を見開いた。


驚きのあまり声が出てこなかった。


驚きすぎて、抵抗も、反応も、拒絶も、何の行動もとれなくなってしまった。



「初めまして。僕は侑也。よろしくね」



ふわり、微笑まれた。


穏やかで、優しくて、魅力的な、笑顔。


くらり、思考回路はショートして、現実と夢の判断がつかない。


ただ、どくん、どくん、心臓が強く速く心拍する。


「じゃあ、僕はここで。危ない男には気を付けてね」


彼は片手をあげてその場を去っていった。


遠ざかる彼の背中を見つめながら、あの微笑みが、声が、頭から離れない。



一目惚れというものがあるとすれば、


こういうことを言うんだろうと思った。



< 6 / 119 >

この作品をシェア

pagetop