突発性ヴァンパイア・ガール!
「ね、吉崎君、今だけ、今だけ泣いてもいい...?」


気持ちが溢れて、涙を流さないと壊れてしまいそうだ。


私が尋ねると、吉崎君は「もう泣いてんじゃん」と溜め息を吐いた。


「俺に許可なんて取る必要もねぇだろ」


吉崎君は言った。


「泣きたいなら、泣けばいい」


その言葉は、ぶっきらぼうで。


だけど、優しくて。


私の涙腺は簡単に崩壊した。


吉崎君は黙ってそばにいてくれた。



「ありがとう、吉崎君」


しばらくして気持ちも収まり、涙を拭きながらそう言うと、吉崎君は顔を背けて溜め息を吐きながら「別に」とそれだけ言った。


「何にもしてないし」


吉崎君は顔を背けたまま、胡座をかいた膝の上に頬杖をついた。


その素っ気なさが吉崎君らしくて、少し頬が弛んだ。


「そばにいてくれて、ありがとう」


吉崎君は少しの間ピタリと動きを止めると、ものすごい勢いで振り返って、私の両頬をビヨンビヨンと引っ張った。


「いだいいだいいだい!」


吉崎君は無言だった。

けれど少し怒っているのか、顔は赤みがかっていた。


「調子に乗りやがって、このバカが!」


「いだだだだだ!いだいっつーの!」


私が抵抗すると、吉崎君はようやく手を離した。

頬を擦りながら、吉崎君を睨み付ける。


「なんでいきなり引っ張るのさ!」


「あんたがムカつくから」


「なんで!?私、何もしてないじゃん!むしろ感謝の言葉を述べたのに!」


しかし吉崎君は「うっさい」の一言で一喝した。


「大体、寅木や香宮に聞いたのかよ、本当のこと。

どうして噂を流したのかとか、なぜ嘘をついていたのかとか」


「そ、れは…」


言葉が詰まる。


「聞いてない、です…」


だって、直接聞こえたもん。


侑也と亜美の姿もばっちり見たし、2人の声をちゃんとこの耳で聞いた。


「だめじゃん」


ばっさりと切り捨てるように吉崎君は言った。


「だ、だめじゃん、ってそんな!」


「なんで聞かないんだよ」


「いや、なんでって…」


私は言葉が詰まった。


「聞くの、怖いんだもん」


「はあ?何が怖いんだよ」


吉崎君は不機嫌な顔で聞いた。
< 83 / 119 >

この作品をシェア

pagetop