突発性ヴァンパイア・ガール!



講堂へと続く人気のない静かな道を進む。


足を進めれば進めるほど、人の姿を見なくなっていく。


放課後になって余計に騒がしいと思っていた生徒達の声も遠のいていく。



講堂裏は私達の学校で有名な呼び出しスポットだ。


うちの学校は、正門を進むとすぐに教室などがある校舎に突き当たる。

その校舎の横には体育館があり、体育館の後ろには広い広いグラウンドがある。

放課後になると陸上部などの運動部がこのグラウンドで活動しているんだ。


そのグラウンドの横、校舎の後ろにそびえ立つようにして建てられているのが講堂だ。


赤いレンガ造りの二階建ての講堂は、その周りをぐるりと森林に囲まれており、四季折々の花が咲いている。


「うわあ、綺麗...」


思わず溜め息が出るほどだった。


その溜め息すらも静かに響いて、講堂を包み込む木々に吸われるように消えた。


学校の敷地内だというのに、しん、と静まりかえる。


講堂は主に来賓の方の接待や式典などの特別なときに使われているため、普段は誰も使っていない。


滅多に人も来ない。


誰にも聞かれたくない秘密の話をするのにはもってこいの場所。


大きく深呼吸をして、私はそびえ立つ講堂のその裏へと足を進める。


それにしても、静かだ。


サワサワと葉の擦れる音、吹き抜ける風の声だけが聞こえてくる。


怖い。


不気味だ。


実のところ、私は今まで講堂裏には行ったことがない。


講堂裏での秘密の話と言えば、大体が愛の告白だ。


何でも講堂裏には有名な告白スポットがあり、そこで告白すると必ず成功するんだとか。


告白の聖地とまで言われている。


この学校において、講堂裏に来て、という文句は、告白します、ということと同義。


この前初めて異性に...侑也に告白された私には縁のない場所というわけだ。


ゆっくり、ゆっくり、足を進める。


講堂は思いの外奥行きがあり、裏へ行くのも一苦労だ。


どうか講堂裏で誰も告白なんてしていませんように。


心で祈りながら、ようやく訪れた講堂の角を曲がった。


そこには既に人がいた。


しかしだからと言って告白現場ではないし、告白相手を待っているわけでもないようだ。


それは私のよく知る人物。


私は近づきながら声をかける。


「来てくれてありがとう」


その人物はいつもと同じように微笑みかける。


「約束したからね」


それはそれは美しい笑顔で。


「うらら」


私の大好きなその声で、私の名前を呼んだ。


「侑也...」



私の大切なひと。



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