突発性ヴァンパイア・ガール!
「亜美は?」


亜美の姿が見えない。

私が辺りを見渡しながら聞くと、侑也はいつもと同じ穏やかな口調で答えた。


「先生に呼び出されたって。後から行くと言っていたよ」


「そっか」


沈黙が訪れる。


侑也と2人でいるとき、沈黙することなんて今まで殆どなかった。

いつも私がペラペラ話すのを、侑也が相槌をしながらニコニコ聞いてくれていた。

優しい笑顔で包み込んでくれた。


そんな暖かな陽だまりのような2人の日々は、もう帰ってこないのかもしれない。

そう思うと胸が苦しい。


「話って、何?」

侑也が聞いた。

私は握った拳に力を入れながら口を開いた。


「あの、さ…」


口ごもってしまう。


言葉を紡ぐのが怖い。

真実を知るのが怖い。

今までの関係に戻れなくなるのが怖い。


怖くて、怖くて、仕方なかった。


2人を呼び出しても、聞ける勇気が私にはない。


臆病者だ。


後には引けないと分かっているくせに。


『このままでいいのか?』


声が聞こえた。


聞こえた、というよりは心に雪崩れ込むように響く、幾つもの記憶だった。


吉崎君の言葉を思い返す度に思う。


弱い。

私は、弱い臆病者だと。


その度に自分の情けなさに苛立ちを覚える。


だけど、それでも。


私は独りじゃないから。


何度も忘れて、何度も思い出した、

私に勇気と希望をくれる、魔法のような言葉。


「あのね、侑也に聞きたいことがあるの」


侑也はいつもと変わらず「それは何?」と優しい口調で尋ねる。


この暖かい優しさにずっと触れていたい。


そんなことを思ってしまった。


いつまでも甘えていてはだめだと知っているのに。


このままじゃ駄目だと分かっているのに。


「亜美と付き合ってるって本当?」


声は辛うじて震えなかった。


けれど決していつもと同じ調子ではなかった。


侑也は黙ってしまった。


いつもニコニコ笑っている侑也の顔から笑顔が消えている。


「......僕の言葉を信じるの?」


「えっ...?」


しばらくの沈黙の後、侑也が言った言葉は、私の想像の範囲を越えていた。


「うららは、僕の言葉を信じられるの?」


侑也は少し笑って言った。

だけどそれはいつもと違う笑顔だった。


いつものような、穏やかで優しい笑顔じゃなくて、

私を少しバカにしているような、悪人のような笑顔だった。


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