突発性ヴァンパイア・ガール!
吉崎君は私のもとに駆け寄って、侑也を睨んだ。


「どうして君が、ここに」


吉崎君の出現は侑也にとっても驚きだったようで、侑也も吉崎君に尋ねた。


「クラスの奴らからこのバカがあんたと香宮を講堂裏に呼び出したと聞いた」


聞いたって、それでここまで来てくれたの?


信じられない思いで、吉崎君を見上げた。


その目は真っ直ぐ侑也を捉えていた。


「どうせ、コイツは無茶ばっかりするだろうと思っただけだ」


来てみて良かったな、と吉崎君は言った。


「やっぱり無茶してる」


吉崎君はちらりとこちらを見た。


うっ、と詰まる。


「だ、って!」


痛みを押さえつけながら、私は反論しようとしたが、吉崎君に止められた。


「前に言っただろうが。

俺に頼ればいいって」


あぁ、そういえばそんなことを言っていたような気もする。


それは私が初めて吸血鬼に襲われたときのこと。


「それは、分かるけど」


息も絶え絶えに、私は言った。


「でも、いつまでも守られてばかりは嫌だ」


吸血鬼に襲われたとき、いつも吉崎君が助けてくれた。


守ってくれた。


吉崎君がハンターだということもあるけれど。



「それに、今回は私がやらなきゃダメなの」



亜美と侑也を呼び出したのは、私だ。


話をしたいと思ったのは、私だ。


そんな私が逃げてはいけない。


それに私にはまだ2人に聞きたいことがあるのだから。


そして私は2人の大切なひとを失いたくはない。


だから、絶対に。



「私は、逃げない!」



強く、宣言した。



「勇ましいな」



吉崎君は少し笑った。


その笑顔が心を満たしていく。


恐怖で満たされていた心が、温かい腕で抱きしめられるようだった。


ふっと心が軽くなる。


そう思った瞬間、視界はクリアになった。


全身にはびこっていた痛みも引いた。


体が軽くなったような感覚がした。


「あ、れ?」


私は思わず自分の両手を広げて見た。


「私、吸血鬼にならなかった?」


吸血鬼になる前に、自分で症状を抑えられた?


「あぁ、なってねぇよ」


吉崎君の方を見ると、頷いていた。


「でも、どうしてだろう?」


理由は分からないけれど、良かった。


吸血鬼になった姿を侑也には見られたくなかったから。

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