突発性ヴァンパイア・ガール!
「私はうららのこと親友だと思ったことはないし、友達だとも思ったことはないわ。

私は親友の"フリ"をしていただけ。


勘違いしないで?」


亜美は妖艶に笑った。


一筋の希望が見えて明るくなった心はどん底に突き落とされる。


更なる暗闇の中へ。



「あぁ、前に言ったかしら」



亜美は口だけを動かして言った。



「うらら、大好き」



『うらら、大好き』


それはいつか聞いた亜美の声と完全に一致した。



あの時の私には幸せしかなかった。


悩みという悩みと言えば、吉崎君に睨まれることくらいで、他にはなかった。


ごくごく普通の学生生活を送っていた。


特別なことは何もなかった。


それでも確かに幸せだった。


あの頃、亜美と笑いあったこと。


帰り道、パン屋さんに寄り道したこと。


冴えない顔をしていた私を心配してくれたこと。


そんな他愛のない日々が愛しくて。


いくつもの愛しい思い出が、がらがらと音を立てて崩れて、黒く染め上げられていく。



あの時にあったもの。


それが今はもうないの。



誰かが言っていた。


大切なものは失くしてから気づく、と。


本当にその通りだ。


あの頃が幸せだったと、今気づいたんだから。


でも失くしてから気づいたんじゃ、遅いよ。


遅すぎる。


失う前の幸せの余韻に浸っている暇もないくらいに。


ただただ、悲しいだけだよ。


辛いだけだよ。


失ったものを再び手に入れる方法を、誰か教えて。




「それも全部、嘘」



亜美は口角を上げながら言った。


「どうして?」


私の声は掠れていた。


今にも泣き出しそうな、情けない声だった。


まるで母親を探している迷子になった幼い子供のような声。


「どうして、嘘をついていたの?」


すると亜美は楽しそうに言った。


「欲しいものがあるから」


亜美は私の手をとりながら言った。


「欲しいもの…?」


「そう、どうしても欲しかったもの」


亜美は目を伏せながら言った。


愛しそうに口にした。


「ずうっと欲しかったの。

だから侑也と協力して嘘をついた」


亜美の言葉が頭の中でうまく繋がらない。


「私がずっと欲しかったものは、侑也もずっと欲しかったもの。

だから利害が一致したのよ。

それに私達はカップルだしね?」


亜美は微笑んだ。

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