現代のシンデレラになる方法
ふとテーブルの上で携帯が鳴った。
相手を見ると、それは予想外の人物で訝しげにその電話を取る。
「はい」
「貴之か?久しぶりだな。元気か?」
「あぁ、元気にやってるよ」
「そうか、それは良かった」
相手の声は親父だ。
声を聞くのはもう何年振りだろうか。
この人は正月でさえ家にいない人間だからな。
「貴之、うちの病院に戻って来ないか?」
それは、唐突な誘いだった。
「え?」
「いつまでそんな市民病院にいるつもりなんだ。昴までそっちに行ったきり戻って来ないし、兄弟揃って何やってるんだ」
「いや、俺は大学病院には行かないよ」
「なんでだ?」
「結婚したい人がいるから」
「大学病院にいても結婚はできるだろ」
「できるけど、忙しくてあまり家にはいれないだろ?相手にそんな寂しい思いはさせたくない」
あなたが母さんにさせていたように……。
母さんは言葉にはしないが、いつも寂しがっているのは知っていた。
それを昔から見てきたせいか、好きな人には絶対そんな思いはさせたくないのだ。
「そもそも、医者の仕事にそんな理解のない妻なんて持つな」
重いため息をつかれる。
その言葉にイラっとして、つい口調が荒くなる。
「父さんとは根本的に考え方が違うんだから、話すだけ無駄だ」
しばらくの沈黙の後、父さんの一言。
「……今度紹介しなさい。母さんも同席させるから」
言うだけ言って俺の返事も聞かないまま、電話を切られてしまった。