現代のシンデレラになる方法


ふとテーブルの上で携帯が鳴った。

相手を見ると、それは予想外の人物で訝しげにその電話を取る。


「はい」

「貴之か?久しぶりだな。元気か?」

「あぁ、元気にやってるよ」

「そうか、それは良かった」


相手の声は親父だ。
声を聞くのはもう何年振りだろうか。
この人は正月でさえ家にいない人間だからな。


「貴之、うちの病院に戻って来ないか?」

それは、唐突な誘いだった。


「え?」

「いつまでそんな市民病院にいるつもりなんだ。昴までそっちに行ったきり戻って来ないし、兄弟揃って何やってるんだ」

「いや、俺は大学病院には行かないよ」

「なんでだ?」

「結婚したい人がいるから」

「大学病院にいても結婚はできるだろ」

「できるけど、忙しくてあまり家にはいれないだろ?相手にそんな寂しい思いはさせたくない」


あなたが母さんにさせていたように……。

母さんは言葉にはしないが、いつも寂しがっているのは知っていた。
それを昔から見てきたせいか、好きな人には絶対そんな思いはさせたくないのだ。


「そもそも、医者の仕事にそんな理解のない妻なんて持つな」

重いため息をつかれる。
その言葉にイラっとして、つい口調が荒くなる。

「父さんとは根本的に考え方が違うんだから、話すだけ無駄だ」


しばらくの沈黙の後、父さんの一言。

「……今度紹介しなさい。母さんも同席させるから」

言うだけ言って俺の返事も聞かないまま、電話を切られてしまった。



< 181 / 196 >

この作品をシェア

pagetop