現代のシンデレラになる方法
病棟の個室でパソコン画面に映ったレントゲン写真を見せながら説明する。
「明日は全身麻酔でやる予定になっています。寝ている間に全部終わってますからね」
そうして、レントゲン写真を指さしながら手術の流れを説明していく。
時折、患者や家族の質問を受けながら。
数分で終えて患者と家族を見送った後、廊下から怒鳴り声が聞こえてきた。
「医者出せ!医者!」
「すいません主治医ではないですけど、どうされました?」
部屋を出て声をかけると、60代の男が顔を真っ赤にして憤慨していた。
その剥げた頭には手術の痕跡が。
右上下肢に麻痺があるのか、左手で手すりを使って体を支えている。
「あ、あのすいません」
横から女の事務員が頭を下げてくる。
大方、ベッドサイドで入院の説明をしていたところだったのだろう。
「脳外の患者さんですか?」
「は、はい」
頭の手術痕とカルテの背表紙に書いてある病棟の階からそう察する。
「いやー、ちゃんとな主治医から説明が欲しいんだよ。なのに今手術中で会えないって言われてよ」
「そうですか、病状のことですか?」
「いやそういうことじゃねぇ、そもそも俺はもう治ってんだよ。なのになんでこんなに入院が長引いているのか聞きてぇんだ」
病状認識なし。自分じゃ手に負えないと、事務員の女に声をかける。
「ちょっと、脳外の看護師呼んできてもらえる?」
「看護師なんて呼ぶんじゃねぇ!」
あー、めんどくさい。
きっと、医者も看護師も手をやいているんだろう。
「分かりました。ではどうぞ、こちらへ」
名前を検索してパソコンからカルテを開く。
そこには、生活保護申請中、SWという文字。
リハビリ病院を探しているとあった。
「入院が長引けばそれだけ金もかかるし、俺はすぐにでも退院したいんだよ」
「入院が長引いているのは、あなたの退院後の受け入れ先を探しているからです」
「あぁ?家でいいだろ!」
「右手足、動きずらいんでしょう?まだまだリハビリが必要な状態です。その状態で一人暮らしができます?」
そう言うと、男は口ごもり目線を下にずらす。
「そもそも脳専門の医者でもねぇ、こんな若造に説明されても説得力ねぇんだよ」
「脳外科医ではありませんが、あなたのその麻痺を見る限り、まだまだリハビリが必要な状態であるのは断言できます」
「だけど、そんなに金は払えないんだよ」
「お金のことは、現在、生活保護申請中とありました。なので、治療費のことは気にせず、今は治療とリハビリに専念してください」
「生活保護?どういうことだよ、それは」
「それはこの子の方が詳しいので」
そう言って後ろに縮こまっていた、事務員を差し出す。
「は、はい……っ」
「じゃ、担当のSWにも連絡いれて来てもらうように行っておきます。そこで詳しく聞いて下さい」