現代のシンデレラになる方法
トラブルなくいつも通り手術を終えて医局へ戻る途中、廊下から事務長の罵声が聞こえてきた。
「予約入院が入れられないってどういうことだ!」
「す、すいません、外科病棟では空きベッドがないと……っ」
怒鳴られているのは、さっき噂していた地味な事務員。
「退院調整どうなってるんだよっ」
「す、すいません」
「しょうがないから、入れられるとこに入れておけ。患者にはちゃんと説明しておけよ!」
「は、はい、すいません」
はいって……、
そんな事務長の横暴どうするつもりだ。
各科の鬼のような師長達に頭下げて回るつもりか。
またそこでも彼女はただ罵倒されて、ひたすら頭を下げて謝るつもりだろうか。
これじゃまるで殴られ続けるサンドバックだ。
自分には全く非がないというのに。
見ているこっちがイライラしてくる。
しかも外科の患者が発端のようで、まるでこちら側がちゃんと退院調整していないと言われているようだ。
あーあ、あまり、こういう面倒事には口を挟まないタチだったんだけどな。
「あの、すいません、病状が変わると予定の日に退院できないこともあるんですよ。人の体を相手にしてるので、その日に絶対と退院できるという保証はできないんです」
そんなのあなたも分かってるはずじゃ、と続けそうになったところで、一緒にいた外科の先輩、高岡先生に止められた。
「ばか、やめとけ」
「いや、だってあれじゃ、うちらに文句言ってるみたいじゃないスか」
「事務長、敵に回すと色々めんどくさいんだよ。あぁいうのはほっとけ」
小声でそうやり取りして、先輩に引きずられるようにしてその場を後にした。
なんだか腑に落ちない。
そんな俺に気づいたのか、高岡先輩が口を開いた。
「お前が言ってたのは正論だ。事務長だって分かった上で怒鳴ってるんだ、あれはただの八つ当たりだよ」
「はぁ」
「それに、気弱な子だから言いやすいんだろう。あんなんじゃいくら事務員だって働いていけないよ。ただでさえ病院ってのは、気の強い人間が多いんだから」
「向いてないですよね、あの子もさっさと辞めればいいのに」
「まぁ、あの子も色々あるんだろ。事情なんて人それぞれだ」
確かに、俺には何ら関係ない。
別に知り合いって訳でもないし。
いくら憐れんでも、あの子自身が解決しないとどうしようもないことだ。
そこに助け舟を出してやる義理もないし。