現代のシンデレラになる方法

白衣の救世主




相澤ひなた、
4月1日より当病院の事務科に任ずる。

もらった辞令書を眺める。

今年この病院の事務科に採用になって、いきなり入退院調整役を任せられた。

だけど、辞令早々波乱ばかり。
どうしていきなり私なんかが……。

なんて嘆いていられる余裕もなかった。
覚える仕事はたくさんあり前任の先輩について回り、ひたすらメモして覚えた。

そんな先輩も辞めていき後任として、いよいよ私一人で任されることに。


あぁ、不安しかない。
今日も怖い事務長が待っている。

そんな恐怖と毎朝戦いながら病院へ行っていた。


ある日、休憩所で受付の医療事務の子達の話が聞こえてきた。


「あの子さ、ひなたっていう名前の割に暗いよねー。あたしあの子の顔まともに見たことないかも」

「とりあえず目見て話せよ、みたいな」

「ねー、本当社会人としてどうなの」


小さい頃から私は口数が少なかった。
誰にも迷惑をかけないように、なるべく控え目に大人しく目立たないように生きてきた。
そのせいで暗いと思われ、ひなたという名前でよくからかわれた。

別に今始まったことじゃない。
今更この生き方だって変えられない。

だけど。

……あぁ、また病院に行くのが億劫になった。




そんな中出会ったのが、先生だった。

怒る患者さんにおどおどしていると助けてくれたのだ。
一生に一度しかないチャンスだったのに、顔も見れなかった。

ただ、お礼を言うのが精一杯だった。

あとで、職員名簿を見たら、東篠貴之、とあった。
外科の先生らしい。

病院でまた見かけた。
かっこよくて、あの人だけキラキラして見えた。

きっと、住む世界が違うってこういうことを言うんだろうな。


遠くから見ているだけで十分だったのに、その人は二度も助けてくれた。

今度はお礼も言えなかった。

でもきっとこれで、私の冴えない人生の運を全て使い果たしてしまった。
だって、こんな幸運が重なるなんてことないもの。

もう彼との接点はないだろうけど。
でもまた遠くから見ているだけでいい。

ただ、好きっていうだけなら許されるよね。

そんなことを思うだけでもおこがましいのかもしれないけど。

きっと先生の周りには綺麗で頭が良くて、話の上手な人がたくさんいるんだろうな。
私なんか足元に及ばない位の。


外科のフロアに行く度に胸が高鳴る。
つい先生の姿を探してしまう。

ちらっと視界に入り、思わず口元がゆるむ。

あぁ、先生。
見ているだけで十分なんです、これ以上は何も望みません。



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