現代のシンデレラになる方法
「相澤さん、初めまして。東條貴之の弟です」
静まった夜の医事科、突如現れたのは先生の弟さんだった。
1人残って、パソコンに向かう私の前に不敵に微笑む。
どうしてこんな時間に医事科に……?
以前病棟で目が合ったことがある。
あの時と同じ笑顔だ。
いやだ……。
すごく嫌な感じがする。
この人の笑顔は、目が全然笑っていない……。
それに恐怖を感じて一定の距離を保とうと、席を立って警戒する。
「ははは、別に何もしないよ」
「す、すいません」
「相澤さんってさ、うちの兄貴のこと好きなの?」
「え……っ」
単刀直入に聞かれて、思わず口ごもる。
その反応にくすっと笑う弟さん。
「自分でさ、釣り合わないなーとか思わない?」
自分でも十分過ぎる程実感していることを、改めて人に言われて傷つく。
だけど、弟さんの饒舌な口は止まらない。
「あいつさ、あんたのことよっぽど気に入ってるみたいだけど。前は、美人な女とっかえひっかえしてたんだよ。だけど、今じゃ何にも取り柄のなさそうなあんたにご執心だ」
そう言いながら私との距離を縮める。
一歩一歩近づいてくる。
私は怖くて動けなくなってしまった。
「あんたさ、本当は医者だったら誰でもいいんじゃないの?俺も一応医者だよ。しかも将来兄貴なんかよりずっと稼ぐつもりだ。金目当てなら俺に鞍替えしたら?」
目の前まで来ると、下を向く私の顎を掴んでくいっと自分に向かせた。
「ねぇ、あんたみたいな子が一体どんな手使ったの?」
「な、何もしてないです……っ、それに、東條先生は私なんか……」
慌てて言う私に、彼は私の腰に手を回してきた。
ぐいっと体を引き寄せられる。
「こういうことして、その気にさせたんじゃないの?じゃないと、あんたなんか相手にされないでしょ」
「いや……っ」
「本当見る目ないよな、あいつ。こんな女のどこがいいんだ」
私を見下し、吐き捨てるように言った。
だけど、聞き捨てならない台詞に、思わず言い返してしまう。
「わ、私のことは何とでも言ってください。でも先生のことを悪く言うのはやめて……っ」
「へぇ、兄貴のこと大好きなんだね」
「私が先生のことを好きだなんて、おこがましいことだって分かってますから……っ、だから、もう関わり合うつもりもないので、」
関わり合わない。
自分で言っていて悲しくなって、涙が溢れてきた。
「そんな顔して言われてもなんも説得力ないよ。おこがましいって思いながらも止められないんでしょ?」
言い当てられて、ついに涙がこぼれる。
「あーあ、泣いちゃった。言っとくけど泣いても優しくしてやんねぇよ?俺は兄貴とは違うからな」
両手で顔を覆い泣く。
もう、自分でもこの気持ちをどうしたらいいのか分からないのだ。