現代のシンデレラになる方法
きっと今頃、落ち込んでいるであろう彼を迎えに行く。
彼は、医事科の椅子に座っていた。
頬が赤くなっている。
先生に殴られたんだろう。
どうやら間に合ったらしい。
未遂で終わって良かった。
本当に相澤さんに危害を加えていたら、今度こそ彼は闇の中から抜け出せなくなる。
だって彼は本当は、
先生のことを憎くんでも、結局のところ憎みきれていなかったんだから。
先生の前でだけ、あんな風に自然に笑うんだから。
いつかその笑顔を、私にも向けてもらえる日が来るだろうか。
私が部屋に入ってきたことに気付くと力なく笑った。
「……なんだ笑いに来たのか。よかったな、大好きな先生の想い人が傷つけられなくてさ。あんたもお人好しだよな」
彼は相変わらず饒舌だ。
しかしそうやって、強がってみせるも表情が暗い。
「帰ろう」
そう言って手を差し出すと、彼は驚いた様子で私の顔を見た。
「なんだよ、兄貴に告げ口した裏切者のくせに優しいんだな」
「優しいでしょ?これで大好きな先生に、あんたとの関係疑われんのよ」
「知らねぇよ。てめぇが勝手にやったんだろうが」
「うるさいわね、さっさと帰るわよ。ほら立って」
なかなか手を取らない彼にしびれを切らして、強引に彼の手を取って立たせようとしたところ。
逆に私の手を引っ張られ、椅子に座った彼に抱きとめられる。
「ちょっと……っ」
思わず抗議しようとすると、彼は小さな声で、でも確かに
「……ありがとう」
と、言った。
「どういたしまして」
初めて見せる素直な彼に、つい笑みがこぼれてしまう。
色々な意味が込められた、そのありがとうの一言。
プライドの高い彼にはこれが精いっぱいだったのだろう。
そして私を抱き寄せたのは、泣き顔を見られたくないがための苦肉の策か。
本当にどこまでも強がりなんだから。
しょうがない、ここは年上の私が気遣ってやろう。
そっと片手を彼の背中に回し、もう片方の手で頭を撫でてあげる。
彼は私の胸で静かに泣いていた。