彼女いない歴が年齢の俺がもうすぐパパになるらしい。
南はあてずっぽに名前を出したに決まっている。何かを察しているわけじゃないさ。
動揺を鎮めようと黙りこくった俺に、南はいかにも女の子っぽいすこし意地悪な顔して言い募ってきた。
「あたし知ってるんですからね。会社の女の子には手を出さない主義のはずの先輩が、まりあ先輩とは2人っきりで飲みにいったの。しかもその後すごく親密そうに竹橋通りを手を繋いで歩いていたのも」
----------落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。
焦って余計なことをいうな。墓穴を掘るな。とりあえず黙って笑え。
冷や汗を掻く俺に気付いていないのか、南は意地悪そうな、だけどたまらなく可愛くも見える顔して睨んでくる。
「やっぱ巨乳って武器になるんだ。ずるいなぁ、まりあ先輩。でも付き合ってるわけじゃないんでしょう?だったらあたしが付け入る隙、ありますよね?……絶対花嶋先輩振り向かせてやるんだから」
南は高らかに宣戦布告をすると、俺に背を向けて颯爽とした足捌きで先に給湯室を出て行く。そこでようやく俺は自分が息を詰めていたことに気付いて、ふうっと溜め込んだ息を腹の底から吐き出した。
南にしても、山岡たち後輩連中にしても、どうしてみんな『恋愛』なんてものにあんなに積極的になれるんだろう。
あまりに男前なちいさな背中を見送りつつ、俺は恋愛感情などではなく憧憬の気持ちで深く溜息をついていた。