彼女いない歴が年齢の俺がもうすぐパパになるらしい。
2 --- 恋愛マスター
(2)恋愛マスター
「あはは、マジで言っちゃったの?『公私混同するタイプ』だって?」
俺の髪をいじりながら航希がケタケタ笑い出す。
今俺がいるのは、航希が店長を勤める美容室、『ヘアーサロン RuLu』。
鏡に映っている俺は、一見この店に来たときとほとんど変わりないように見える。
でも明るい蛍光灯の下で目を凝らしてみれば、丁寧にブローされた髪が地毛の黒よりわずかに明るくなっているのが分かる。そして何より違うのが艶感だった。水分をコーティングしたように髪が一本一本輝いて、俗に言う天使の輪が出来ている。
この濡れたような質感は、航希から施されたヘアーマニキュアのおかげだ。
正しくはマニキュアに他の薬剤をプラスしたなんとかグロスという処方らしいけれど、美容に興味がなくておまけに専門外の俺にはよく分からない。
だからとにかく、航希にすべて『お任せ』しておけば間違いないのだ。
航希はいつも俺の髪の状態を正確にカウンセリングして、そのときどきの流行を取り入れた髪型に変えてくれる。いつも会社勤めに合うように整えてくれるけれど、まったく同じ髪型にはせず、航希は持ち前のテクニックやセンスを駆使して細かいアレンジを入れて毎回違ったニュアンスになるように仕上げてくれた。
そのあたりは航希の趣味と言うか、プロ根性らしい。
お陰で俺は会社で吊るしのスーツしか着ていないのに、いつもやたらとお洒落に見られた。
今日もすこし耳に掛かっていたサイドを短くしてもらって、ばっちり爽やかなヘアスタイルになっている。