彼女いない歴が年齢の俺がもうすぐパパになるらしい。
「……ああくそ。マジかよ、来週から俺どうすりゃいんだよ……!?」
「付き合っちゃえばいいじゃん、南チャンと」
俺の本気の絶望を前に、航希はあしらうように言う。
「男食いまくってる感じの美人なんでしょ?『女に尽くすようなセックスは飽き飽きしてるから、君が俺をその気にさせてくれたら付き合ってあげてもいいよ?』って高飛車にふっかければ、そういうプライド高い女の子は自分からしゃぶって跨いでガンガン御奉仕してくれると思うよ?しかも数々の男に仕込まれてきた華麗なるテクニックもはりきって駆使してくれるはずだし。……っあーいーな、そういう超肉食美女に久し振りに根元からずっぽり食われてーわ」
航希はへらへらスケベな笑みを隠しもせずに、全然参考にならない攻略法を口にする。
俺が本気で困ってるときは、親身になるより面白がる傾向があるちょいS気味な航希。
このまま粘っても良案を授けてくれそうにもない。
「……いいわ。また来るから」
ほとぼり冷めるまでどうにか南をかわすのか。
航希の気が変わって俺に知恵を授けてくれるのを待つのか。
どちらにしても来週の月曜日の出勤が、今からとんでもなく気が重い………。
「やだね、橘平くん。美女に迫られてるのにそんな借金取りに追われたような顔して」
返すことが約束できない好意を次々に寄せられるのも、ある意味借金してるような心境と変わりない。
「………お疲れ。髪、ありがとな」
そういってのろのろきれいに磨かれたガラス戸から出て行こうとすると。
「橘平くん、そういや今日はこれから例の子とデート?それとも『ドルガ』仲間との会合?」
航希は無邪気に聞いてくる。
でもその実、航希の目が肉食獣のようにきらりと意味深に光っているのを俺は見逃さなかった。