彼女いない歴が年齢の俺がもうすぐパパになるらしい。
「……ちげーよ。今日は同期会。徳たちに呼ばれてんだよ」
その言葉に、航希の表情がわかりやすくぱあっと明るくなる。
「てことは莉子さんも来るの?俺も行っていい?ねね?終わったらさ、ぜってぇダッシュで行くから連絡してよー、頼む頼む!橘平くーん、俺と君とは同じ血が通った従兄弟同士じゃないかー!」
あまりの食いつきに若干引きつつ、桐谷は航希のことを『全然タイプじゃない』と言い捨てていたことを伝えとくべきか、でも逆に航希は燃え上がっちまうのかとか、そんなこと考えて悩んでいると。
「仕事しろ、くそ馬鹿」
ひっそりと航希の背後に忍び寄っていた副店長のアキナちゃんが、こっそり先の尖ったブーツで航希の足を蹴っ飛ばした。
「いってぇな、ったく。この乱暴女」
航希に悪態つかれも、アキナちゃんはいつもどおり、とても接客業向きとは思えない無表情。でもいわゆるクールビューティってやつで、ただ眺めるだけなら眼福もの。
航希が見込むだけあってスタイリストとしての技術は確かなもので、このアキナちゃんにも指名してくるファンが結構いるんだって、前に航希が自慢げに話していた。
「おい無視かよ。いてぇつってんのに。……じゃあな、橘平くんまたねー」
俺に手を振りつつ、アキナちゃんにずるずる店内に連れ戻された航希は、どこかしあわせそうにへらへらしている。
………アキナちゃんは航希の元カノ兼現セフレでもあるらしい。
そういう微妙な相手と職場を共にする神経が俺にはさっぱり理解出来ない。
ひとつだけ分かるのは、恋愛とかセックスとか、そういうものはとにかく俺には分からないことだらけだってことだけだ。