彼女いない歴が年齢の俺がもうすぐパパになるらしい。
「……ちょっと髪、いじってきただけだよ」
「ああ!従兄弟さんが美容室の店長さんやってるんでしたっけ?いつもセンスいいっすよね。今度俺も紹介してくださいよー。ってか、やっぱ今日の合コン、一緒に行きましょう、ここで会ったのも縁っすから」
そういって山岡が悪ふざけを装いつつ、結構マジな強さで俺の腕を引いてくる。
「待て待て。ほんとに悪いんだけど、俺これから同期と飲む約束してたんだ」
山岡が疑うような目を向けてくる。目付きは鋭くなっても、基本子犬系だから凄みが出るどころか、チワワに睨まれたようななんともかわいい感じだ。
「嘘じゃなくて。これからショットバーで前哨戦、そっからダーツかビリヤードだらだらやって、下手したらまた終電だ」
「とかいって、やっぱホントは本命カノジョさんとお泊りデートとかなんでしょ」
「今日はほんとに経理の徳田とか、総務の桐谷とか、いつもの連中で飲みなんだよ」
「……き、桐谷先輩っ!?」
不服そうな顔して俺の話を聞いていた山岡が、一瞬にしてテンションを上げてくる。
「まじっすかっ。桐谷莉子先輩とですか!?うは、めっちゃうらやましいんすけど!!今度俺も混ぜてくださいよー、おごってくださいなんて言わないから!俺も桐谷先輩と飲んだり桐谷先輩と遊んだり桐谷先輩とお喋りしたいっす!!」
これから合コンで女子大生引っ掛けようとしてるくせに、山岡は語尾にハートマークが付きそうなテンションで『桐谷先輩』と連呼する。