彼女いない歴が年齢の俺がもうすぐパパになるらしい。
俺と同期の桐谷莉子は総務課にいて、うちの会社では南と人気を二分している女だ。南がぱっと見、守ってあげたくなる正統派ヒロイン系の可憐なタイプなら、桐谷はその真逆のタイプ。
性格がキツいのが難だけどそれが許されるくらいのかなりの美女で、桐谷も桐谷で会社内外でかなりモテるのだ。
そんなわけで、さっきの航希同様、山岡もこの食いつきようだ。
「でもさすがだなぁ、花嶋先輩。誘っても全然靡いてくんないことで有名な、あの桐谷先輩が飲み仲間とか。超豪華っすね。あーまじうらやましい。ほんと、今度誘ってくださいよ?」
「またそのうちな。とりあえず今日は、俺の代りにセシ女、ゲットしてこいよ?」
にっこり笑って言ってやると、山岡は「うっす!」と体育会系のノリで返事をしつつも、ちょっといじけたような顔をする。
「……でも花嶋先輩。合コンも、マジ今度は来てくださいよね。俺、女の子たちに、知り合いに独身の超イケメンいるっていっちゃってるんすから。このままじゃ俺嘘つき扱いっすよ」
山岡がそんなことを言うから。
「イケメン?ここにいるだろ」
「え?」
「……馬鹿だな、おまえの方がよっぽどイケメンだよ。山岡は後輩の中じゃダントツに仕事の勘もいいし、頼りにしてるからな」
食い下がってきた山岡の肩をぽん、と軽く叩いて通り過ぎる。そのまま振り返らずに手を振ると。一瞬の沈黙の後、背後で爆発するように「……かっけぇ……!」の声が上がった。
見なくても分かる。今、山岡は尊敬とか憧憬とかを詰め込んだ、すっげぇきらきらした目で俺のことを見てる。
-----------俺はいったい、いつまでこのキャラ続ける気だよ。
いつかボロが出るぞ出るぞと覚悟しつつも、小心者の俺の警戒心は俺自身の想像を遙かに上回ってて。
おかげで入社してから約7年、今ではすっかり世慣れたスマートな都会の男だとか、勝手にそんなふうに見られるようになってしまっていた。