赤い電車のあなたへ
「あっ!」
叔父さんが素っ頓狂な声を出し、息子に咎められてた。
「父さん、もう少し静かに……なに?」
「道が……崖が崩れ落ちて土砂に埋められてる。病院までにはこの一本道しかないのに」
叔父さんの狼狽える声とは反対に、夏樹が落ち着いた言葉を出す。
「父さん、落ち着いて。幸い今は雨が降ってないだろ? 病院までにはあと3キロで着くし。俺が鞠をおぶってくから、父さんは先に行って知らせてくれ」
「あっ……ああ。わかった」
車のドアが開閉する音がして、トランクでガサガサと何かを探ってるっぽい。
「懐中電灯は?」と叔父さんが訊くと、夏樹は要らないと答えた。
「鞠を背負うのに両手が必要だし、それにこんな時もあるかとヘッドランプを持ってきてるから。それより父さんは先に行ってくれ。腰痛じゃ鞠を運べないだろ」
「ああ、じゃ先に行くが十分に気をつけるんだぞ」
「わかってる。父さんこそ足元には注意してくれよ」
そんなやり取りがして間もなく、叔父さんらしい足音が遠ざかっていった。