赤い電車のあなたへ



「鞠、ちょっとつらいかもしれないけど辛抱してくれよ」


夏樹がそう声をかけてきたから、わたしはぼんやりした頭で返事をした。


「ん……」


先に腕を夏樹の肩にかけて、次に不可抗力ながら足を腰にまわす。ヨイショ、と夏樹がわたしの体をおぶって前かがみになった。


体が密着して恥ずかしい、なんて意識はすぐに消えていく。熱で体は重くて、頭がふわふわしてるから。


車から離れて夏樹が歩き出してすぐに、じゃりじゃりした音がたつ。


うっすらと目を開けてみると、目の前は全然舗装されてない砂利道だった。


周りには雑草が生えていて、片側には叔父さんが言ったとおり崖に近い傾斜が。もう片側はたぶん朝露川の渓流に続く傾斜。


つまり、どちらにしてもまっすぐ行くしか方法はないみたい。


地滑りは30センチくらいしか積もってなくて大した事はないみたいだけど、車で通るにはつらいかも。夏樹は苦労してそれを乗り越えて先へ進んでいった。


じゃり、じゃり。と夏樹が砂利を踏みしめる音がずっと続く。


わたしは夏樹の背中で揺られながら、心の中でまたほたるに謝った。


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