赤い電車のあなたへ



夏樹の背中で揺られながら、わたしは懐かしくてあたたかい気持ちでいた。


いつの季節だったろう。
わたしが小学2年生のとき、龍ヶ縁で迷子になった時があった。


あのときは親戚じゅうでピクニックに行ったんだっけ。


龍ヶ縁の日当たりのいい場所でお昼ご飯を食べてるとき、わたしは珍しい蝶々を見つけて追いかけて。深い森の中で迷子になった。


気がついたら濃い緑のなかで、わたしはひとりぼっち。
泣いても叫んでも、誰も応えてくれない。


鳥が飛び立つ羽音さえ怖くて、わたしはむやみやたらと走り回った挙げ句ますます迷った。


そんな中でわたしは岩につまづき、足をひねって挫いてしまったんだ。


そのうちに日が暮れて、泣きつかれたわたしは大きな木の下で眠った。


そしてわたしを見つけ出したのが、ひとつ上の従兄である夏樹だった。


あの日も夏樹はこんなふうに足を痛め歩けないわたしをおぶってくれた。真っ暗な深い森の中を、文句も言わず黙々と歩いてくれて。


そのおかげでわたしは無事にみんなに再会できた。


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