赤い電車のあなたへ



そんなことを懐かしく思い出す。


途中でかなり揺れたり、バランスを崩しかけたりしたけど。それでも、夏樹は辛抱強くわたしを運んでくれる。


砂利道からなだらかな道に変わる頃、診療所の灯りが見えてきた。






「肺に近い場所で気管支炎を起こしてるね。高い熱はそのためだわ。
とりあえず座薬と点滴で落ち着くか一晩様子を見るか。今日明日は念のため入院するだよ」


「は、はい。よろしくお願いします」


叔父さんとお医者さんのやりとりで、わたしはぼんやりと“帰れないんだ”と考える。


明日はぺんぎん屋で元気な姿を見せて、みんなを安心させたかったのになあ……。ってがっかりした。


なんだか、ぐるぐると世界が回ってる。
これだけ回ったら、あの人に逢えるかなあ。なんて変な事を考えた。





わたしの熱は一晩で下がらずに、結局そのまま診療所にお泊まりになった。


あ~苦しい。


こんなつらい時にはせめてあの人のことを考えよう、と思いながら。家に荷物を取りに戻った夏樹が渡してくれた封筒を開いて驚いた。

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