赤い電車のあなたへ
わたしはお医者さんの発言に、たぶん目をまん丸くし過ぎたんだと思う。後から考えたら間が抜けて恥ずかしい顔だった。
でも、そんなことも熱も吹っ飛ぶ事柄が、お医者さんの口から出るなんて。
「ほ、本当ですか!?」
わたしが腕を支えにベッドから体を乗り出すと、看護師さんにたしなめられた。
「本当ですよ。私も覚えてますから……さあ、ちゃんとお布団に入って。まだ熱が高いんですからね」
「……はい」
確かにこれ以上気管支炎をこじらせて、治りが遅れたら嫌だな。あの人に逢えるたった一度の機会がなくなるとしたら、それはとても悲しいから。
わたしが大人しく横になると、看護師さんが肩まで布団をかけてくれた。
「それで……その人は? どんな人なんですか?」
わたしがあまりに過剰に反応したからか、当然看護師さんが事情を訊いてきた。気が急いたわたしは、今までのことを包み隠さずに看護師さんに話した。
すると。
「ああ、ちょっと待ちなさい。去年のカルテがあるから名前くらいなら教えられるよ」
チラッと話を聞いたらしいお医者さんが、特別に名前だけは教えてくれた。流石に住所や電話番号はプライベートだから無理だけどね。