赤い電車のあなたへ
『あの……すいません。息子さんのお話をきいてもいいですか?』
「おお、おお。かまわんよ」
龍太郎おじいさんは縁側から立ち上がって奥へ引っ込むと、しばらくしてお茶と大福を持ってきた。
「ささ、たんとおあがり。長い話になるやもしれんでねぇ」
ニコニコ顔の龍太郎おじいさんは、よほど子どものことが好きだったんだな。と察せた。
「龍二(りゅうじ)はなあ……誰に似たのか優しい子でな。ふつう男の子なら、好奇心から虫をいじったりするもんじゃろ?
じゃが……龍二はそれどころか、水たまりで溺れたアリを助けるくらい優しい子でな。残酷なことは好かなんだ。
生き物もじゃが、土や石が何より好きでな。龍ヶ縁に行った時なんぞ、化石を掘りたいと騒いだほどで。大きくなったら化石を掘ると宣言したほどじゃ。
むろん、その後龍二が龍ヶ縁に来たことはなかったが……ワシは未だに未練もあって、ガイドを続けておるんじゃ。3歳で別れた息子に会えるのじゃないかと」
龍太郎おじいさんはそう言って、寂しく笑う。
「その後風の頼りに順子が新しい男と再婚したと聞いていたから、龍二も義父になついてわしのことなぞ忘れたかもしれんが」