赤い電車のあなたへ
「ね、鞠。お泊まりしない?」
そんな提案が親友からあったのは、明日から夏休みという終業式の日。
教室であの人のことを考えていたら、ほたるが紙袋を手に誘ってきた。
「商店街のくじに参加したら、三日湖(みかこ)の旅館にペアで一泊できる券が当たったの! ちょうど夏休みだし」
ウキウキ気分のほたるだけど、どうしてわたしを誘うんだろう?と疑問に思う。ふつうペアなら、恋人を誘うんじゃないかな。
「ほたる、夏樹は? わたしじゃなくて夏樹を誘いなよ」
こんなチャンスならめったにないし、高校生ともなればもう少し大胆になってもいいと考えた。
わたしの地元の中学生でさえそんなのあたりまえだったな、とわたしは中学生時代を思い出す。
大胆にならなきゃ、積極果敢にならなきゃ、欲しいものは得られない。都市部ではそれが当たり前で常識だった。
実際に積極的に自分を主張して我を通す人ばかりが得をし、控えめな人は割を食らって損をしてた。
まさに弱肉強食。
けれど、他の人たちを貶めたり、傷つけたり。そうまでして得たいものって、いったい何だろう?
より自分が多くを掴み、いかに得をするか。いかに手に入れるか。
好きな人ができたり、自意識がはっきりしてくる中学生だと、それがさらに顕著になって。いかに自分が多く持ち得て有利かわかると、持たざる他人を平気で嘲笑い貶めたりしてた。