赤い電車のあなたへ
お母さんはその時大作の執筆で忙しくて、編集の人から逃れるためホテルを転々としてて。家にはわたししかいなかった。
編集の人からの原稿催促の電話や張り込みなんかあたりまえで。わたしが代わりに責められている気がして、鬱々した気分になってた。
お母さんはわたしを養うために頑張って執筆しているとは分かるけど。
学校がつらいという話を、もう受験生だって話を、聞いて欲しかった。
なにも学校に怒鳴り込んでなんて言わない。ズバッと解決したりしなくていい。答えもなくてもいい。
ただただ、話を聞いて一緒に悩んで。大変だねと抱きしめて欲しかっただけ。
そうだねって、わたしの辛い思いに共感してくれる。それだけで良かったのに。
だからわたしは全てが嫌になって、何もかもから逃げるように朝露に来た。
“わたしがどんなに悩んでも、怪我しようと、病気になろうと。お母さんはどうでもいいんだ! 仕事の方が大事なんだ!!”そんな意固地な思いを抱いて。
お母さんはわたしが進路の話をしても上の空で、自分の話と言えば小説のことばかり。
架空の国がどうとか、妖精の国がどうとか、ある時は魔法学校の話とか。
みんなみんな架空の事ばかりで、現実のわたしにはちっとも目を向けてくれなかった。