赤い電車のあなたへ



5歳でお父さんを亡くしてから、お母さんはわたしを育てようと幅広い執筆活動を始めた。


わたしのためだって理解してるし、感謝はしてるよ。


でもね。


ちっとも振り向いてもらえない寂しさからすれば、そんなのはすぐに消えちゃう。


“あんたなんかどうでもいいよ”って、直接言われてないけどそう思われているみたいで。


学校行事でも、父兄参観の運動会や学芸会。三者面談や授業参観。お母さんはことごとくみんなみんな欠席した。


お母さんと写った思い出の写真は、みんな5歳以前の――お父さんが生きてた時のばかりで。


遠足や運動会のお弁当も、お金を渡されて“コンビニで好きなの買いなさい”と言われただけ。


何かあって話したくても、仕事部屋に籠もるお母さんとわたしを隔てる一枚のドアは、限りなく厚かった。


だから、わたしは少しずついろんなことをあきらめて、期待しないようにする心掛けをした。


期待したら虚しくなるだけなんだって。そうして他人にも淡白になったわたしだけど。


夏休みに入った途端、逃げたくなって発作的に来た朝露で。生まれて初めての恋をしたんだ。



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