赤い電車のあなたへ
ところが、意外にもあっさりと夏樹達は帰ってきた。
子どもたちがめいめい持つ草で編んだ虫かごには、おっきなカブトムシとかトンボとかが入ってる。
「池に行く途中で虫取りになったんだよ。取った虫を早くみんなに自慢したいってせっつかれたから、帰ってきたんだ」
よく日焼けした夏樹が白い歯を見せながら苦笑する。
あ、変わらないな夏樹は。笑うと出来る目尻の笑いじわですこし老けて見えるんだ。
もちろんそんな事を本人に言ったらショックだろうから、言えないけどね。
「そうなんだ。みんなすごいね! たくさんおっきな虫を取って」
わたしがしゃがんで虫かごを覗くと、他の男の子が我先にと虫を見せてきた。
「俺の方が立派だよ! オニヤンマ取ったんだ」
「ぼくね、初めてクワガタ穫れたんだ」
「オラなんかこんなにでっけぇセミだぜ!」
見たこともない種類の虫とか、知ってても都会では見られない大きさとか。改めて朝露の自然の豊さを感じて感激した。
こんな場所だから、みんな伸びやかに健やかに生きて育ってゆく。
お金や便利さ、損得勘定だけじゃ手には入らない大切なもの。目に見えない価値のあるものたち。
本当なら、ただ黙ってそこに存在してるだけで意味がある。
それをつまらないだの無意味とか価値がないと即物的な価値観で切り捨てるから、病んでしまう。切り捨てられた側に立ったことがあるわたしからすれば、そんな気がしてならない。