赤い電車のあなたへ
電車に揺られながら眺めるのは、車窓から見える景色。
わたしはいつも左側のドア付近に立って、外を見る。
あの人がいたのと同じ場所。
あの人もこの景色を見たのかな。
線路のすぐ下は渓流で、河岸の色とりどりの石に混じり鮮やかな緑。
時々忘れたように花が咲いて風に揺れてる。
煌めく川面の下には鮎や何がしかの魚が泳いでいて。
ゆったりとしたそれだけでも癒される。
渓流の向こうに広がる裾野には、野鳥の囀りも聴こえるんだろうな。
いつか遊びに行きたい。
あの人と逢えたら。2人で行けたらな……なんて。
トンビが輪を描き羽ばたく様を見ながら想像してみた。
キツネや熊やホンシュウジカも見た、って健太叔父さんが言ってたから。
会ってみたいな。
朝露に来たなら、一度は大自然のなかに身を置いてみたい。
そんな願望も頭をもたげ始めていた。
友達とおしゃべりするより、そうやって想像したり自然と触れ合う方が楽しいなんて。
やっぱりわたしは相当変わってるんだろな。
流れゆく景色を見ながら溜め息をつく。