赤い電車のあなたへ



ドキドキとワクワク。


子どもの頃だって、こんなに浮き立った気分にならなかった。


わたしは話す2人の邪魔をしないよう、ゆっくりゆっくりと近づいたのだけど。


「きゃああああっ!」


唐突に後ろから飛びついてきた雑種犬のトロロは、地面に倒れたわたしの顔をペロペロと舐めてくる。


「トロロ、やめなさい! くすぐったい!」


「おやおや、いつものお嬢さんだのう。龍治(りゅうじ)、悪いが助けてやってくれまいか?」


え、りゅうじ?


知らない名前に思わずそちらを見やれば、龍太郎おじいさんと会話をしてた男性がこちらを振り向いたのだけど。


その男性はすこし面長で目が細く、龍太郎おじいさんによく似ているひとだった。


生き別れた息子さんにしては、年が若く見える。せいぜい20代半ばくらいかな?


それでもあの人に似た空気を持つというだけで、胸が高鳴った。


龍治さんは黙ったままわたしに近づき、トロロを抱き上げて助けてくれた。


< 131 / 314 >

この作品をシェア

pagetop