赤い電車のあなたへ



「これ、いつどこで描いたんだい?」


なぜか真剣な顔で龍治さんはわたしに訊いてくる。


「あ……あの。ちょうど一年前に朝露の駅で見かけたんです」


わたしがおずおずと答えれば、龍治さんはまた次々と質問してきた。


「その時一人だった? 他に誰かと親しく話したりしてなかったかい?」


どうして龍治さんはそんなに質問するのだろう?と不思議に思う。龍太さんを知っているなら、たぶん地質調査の同僚か何かだと思うけど。


疑問を感じながらも、あまり立ち入った質問をするのもはばかられ、わたしは正直に答える。


「あ、あの。去年の7月の夏休み、朝露の高校を受験するための事前見学に来たんです。

その時にたまたま赤い電車に乗ってたこの人を見かけて……笑顔が印象的だったから思い出しながら描いたんです。
電車は長野県の終点まで直通で、その方はたぶん1人でいらしたと思いますけど……
なにせほんの数秒間の出来事だったので、詳しくはわからないです。ごめんなさい」


わたしは軽く頭を下げると、それ以上深く追及されたくなくて、龍太郎おじいさんのそばに逃げた。


この人を好きになった、だなんて。見知らぬ人にまで知られたくない。


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