赤い電車のあなたへ



わたしはその時に得た情報だけを教えた。


ほかにもいろんな事や名前まで知っているなんて、感づかれちゃダメだ。


だいたい笑顔が良かったから絵を描いた、なんて。年頃の女の子がそんなふうに言うこと自体、たぶん不自然じゃないかな。


おそらくは、十中八九恋愛絡みと思われる。


なるべくそのことに気付いて欲しくないし、気付いても知らないふりをしてくれないかな? なんて、自分に都合のいいことばかりを考えてしまってる。


なんかいやな人間だ、わたしは。と軽い自己嫌悪に陥った。


龍治さんは真剣に訊いているのに、勝手な感情で全て答えないんだから。


わたしの話を聞いた龍治さんは腕を組み、ふむと顎に手を当てる。


「そいつはおそらく 緑川 龍太。俺のいとこだよ。ちなみに俺は緑川 龍治。龍太郎じいちゃんの孫だ」


え!?


意外な情報を教えられ、わたしはまじまじと龍治さんを見た。


「そんなに見るなよ。照れるだろ」


ポリポリ頬を掻く龍治さんの照れ笑いは……


言われてみれば、確かにあの人の笑い方によく似ていた。



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