赤い電車のあなたへ
正直言うと逃げたい気持ちはもちろんある。
夏樹はわたしをどうするのかわからない。あんなに怒った夏樹は知らないから。
でも、彼とは変わりたくはないと思うから。
わたしが夏樹と離れるのは嫌だし、彼がほたるのことが一番なのは仕方ないけど。せめて2番目か3番目くらいではいたいと思うんだ。
そんなふうに思うのは、やっぱり変なのかもしれないけど。
なんていろいろ思いながら、ふと目に留まったのは壁に張った写真。
かなり色褪せてるのはたぶん十年以上経ってるものだ。
そこに幼い自分も写ってたから、わたしは懐かしくなって近づいてみた。
自分の写真なんて、何年撮ってないんだろ?
幼い頃はお父さんにしょっちゅう撮ってもらえたから、いっぱい残ってるけど。お父さんが亡くなってお母さんと2人になってから、家族写真なんて撮ってない。
お母さんは写真嫌いなのかカメラなんて持たないし、記念写真を撮るような場所には出掛けなかったし。
わたしが撮ってもらえたのは、親戚で集まった時か学校の集合写真くらいなんだ。