赤い電車のあなたへ
夏樹はわたしを見つめたまま、身じろぎもしない。
その目はわたしの心まで見透かされそうで、微かな怖さを感じて目を逸らした。
夏樹はいったい何をわたしに求めようとしているのかな?
沈黙と視線に耐えきれないわたしは、目に付いたものを指差して夏樹を振り返った。
「あ、あのさ。懐かしいよね写真。わたしのお父さんとか、夏樹もチビっちゃい頃が写ってるし。叔母さんも。こんなに綺麗な人だったんだなって」
いつもならわたしに付き合ってくれる夏樹は、話に乗ろうともしないでわたしをじっと見つめている。
それ以上話を続けられないわたしは途方に暮れて、夏樹に背中を向けると写真を見上げた。
何を言えばいいか、なんてわかるはずもない。わたしはこういった真剣な場面ではいつも逃げてきたから、どんな顔でどんなふうに対処すればいいのかがすぐに思い付かなかった。
だから、夏樹のいきなりな行動なんか予期出来なくて。
夏樹が――わたしを後ろから抱きしめた、だなんて。
全く予想もしないことで。