赤い電車のあなたへ
時が、止まったかもしれない。
庭から聞こえる夏の虫の音が、やけに大きくて。
わたしは、息をするのさえ忘れた。
背中越しに感じるのは、確かに夏樹のぬくもりと力強さ。
いつの間にか、夏樹はこんなにもわたしと違ってきたんだって。嫌でも実感させられた。
でも、なぜ?
なぜ夏樹はわたしにこんなことをするの?
理解は出来なくっても、壁の写真が視界に入ったわたしは。頭にほたるの事が思い浮かび、自然と夏樹から離れようと体が動いた。
わたしは別に無理やり解こうとはしなかったのだけど、少し動いただけで夏樹の腕はスルリと抜けた。
わたしは夏樹から距離を取るために、壁際の写真まで歩いてそれを見上げる。
逃げたなんて思われたくはない。
わたしは夏樹からも他からも逃げたくない。
だから少しの躊躇いはあっても、わたしは振り向いて夏樹の顔を見る。
夏樹はまっすぐにわたしを見てた。すこし寂しいような、なんとも言えない笑顔で。