赤い電車のあなたへ



そう言ってわたしは壁に貼った写真を指差した。


「夏樹、わたし達はもうお互いに卒業しなきゃいけないね。
ここにもわたしじゃなく、ほたるの写真を貼るべきだから。

夏樹の恋人はほたるで、わたしの好きな人は龍太さん。

あたりまえ過ぎて身近過ぎて、作ってきた思い出や感情を間違えないで」


わたしが精いっぱい考えて夏樹に向けた言葉だった。


夏樹の感情や意識全ては今、わたしに向けられているに違いない。だからこそ、わたしははっきりさせたくて。わざと突き放す。


今までと同じでいい、と言うなら何も変えないのが一番楽だ。


わたしもいざという時は気軽に夏樹に頼れるし、いつもと変わらない毎日を過ごせばいいんだから。そんなぬるま湯みたいな心地よさに満足していれば、何もかも変えなくていい。


それが今までのわたしだった。


でも朝露に来て龍太さんを捜す中で、わたしはいろんな出会いや経験を通じ知った。


じっとしてるだけじゃ何も生まれない、何も変わらないと。


わたしが自主的に探し始めなきゃ、龍太さんのことは名前も解らなかったし、龍太郎おじさんとも出会えなかった。


龍治さんの捜索に進展はなかった。


アルバイトしたぺんぎん屋でも子どもたちとああまで仲良くなれなかった。


全てわたしが選び決断し行動した結果生まれたものなんだ。




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