赤い電車のあなたへ



「わかった。それじゃあお互いに大切な人を優先しよう」


ほたるは口元を綻ばせ、わたしの背中を軽く叩く。


「あたしもあんたも、まだ相手の気持ちは掴めてないもんね。お互いにこの旅行で少しは近づければいいよね?」


ほたるの励ましで、そうだと改めて自覚する。
わたしは龍太さんの事は知っているけれど、たぶん彼はわたしの存在すら知らないはずなんだ。


わたしは龍太さんが好き。


あの夏の日、あの笑顔を見て一瞬で恋に落ちた。
優しくて暖かく、人懐っこい笑顔に惹かれて。


彼に逢いたくて、彼を知りたくて朝露に来た。


この4ヶ月間ずっと捜して。彼の名前やどんな人かが少しずつわかって。ますます好きになっていったんだ。


もちろん、この恋はわたしの片思いってわかってる。
相手はわたしの存在すら知らないし、5歳の年齢差はかなり大きい。子どもと大人だ。相手になんかしてもらえないと思う。


ましてや、龍太さんは同年代の女性と一緒にいるらしい。かなり仲睦まじいとの情報もあったし。もしかしたら彼女といるのかも。それを思うときには、胸がざわざわと嫌な感触がする。



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