赤い電車のあなたへ



女性は高橋さんと名乗り、三日湖の湖沿いのメインストリートにある小さな飲食店を営んでいるという。


事情を説明したわたしをわざわざ案内してくれながら、水谷さんは去年あった出来事を話してくれた。


「去年の今ごろだったかしら。ちょうど一番忙しい時期だったから、住み込みって条件だったけど働いていただいたの。
まあうちには半月ほどしかいなかったけど……一緒にいる女性が具合が悪そうだったから、印象に残ってるわ」


水谷さんはそう言って飲食店のなかに入ると、小さな事務机からバインダーを取り出して捲る。


「ええっ……と……ま、み……あったわ」


水谷さんが捲ったそれを、わたしに広げて見せた。


「ほら、この人緑川さんでしょう?」


水谷さんが指し示したものは、履歴書。そこには馬鹿正直に龍太さんの履歴が詳細に書かれていて、わたしでも偽名を使わないのかと疑問に思うほどだった。


「ええと……去年の8月8日に雇い入れして、2階の3畳間でいいから住み込みさせてくれと。8月20日まで運び役で働いていただいたわ。お給料を手渡したら、そのまんま出ていったわね」


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