赤い電車のあなたへ



拝殿に向かったわたしは十円玉を賽銭箱に投げ入れ、紅白の紐を動かし鈴を鳴らした。


パンパンと二度手を鳴らしてお参りする。


(どうか、龍太さんが早く見つかりますように)


それから、と付け足した。


(夏樹が早くほたるに見つかり、2人が仲良くしますように)


自分自身の言葉は、願えなかった。

わたしの気持ちは一方的だし、まだ相手に逢えてもいないのに、想いが叶いますようになんて利己的なお願い。きっと神さまも困ってしまうから。


限りなくゼロな、わたしの恋が叶う可能性。


国中の高名な占い師が占っても、どんな計算をしても簡単に出せる答え。


『あなたの恋は実らない』。


誰に訊いてもわかりやすいそれは、誰もが答えが簡単に導き出せるよ。


ましてや、龍太さんのそばには女性の影がある。


龍太さんが行方不明になったのも、その女性の為だと思うのが自然だ。


どんな理由があるにせよ、わたしには立ち入れる世界じゃないのかもしれない。


拝殿の奥に頭を下げながら、わたしは悲しい現実に気付いてしまう。


“もしも逢えても無意味じゃないか”って。



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