赤い電車のあなたへ



神社の方はただ静かに促すだけで、無理に話せとは言わない。


それでも、わたしは話していいのか迷う。


わたしのなかにある気持ちは、はっきり言ってとてもわがままだから。自分勝手で卑怯な気持ちが渦巻いている。それを声に出してかたちにしてしまうのが怖い。


朝露に来るまで逃げるのがあたりまえだったわたしは、こんな気持ちになるのが初めてで。自分で持て余してしまう。


恋すればするほど、切なくて。知れば知るほど苦しくなる。


単なるわたしのわがままを話してしまって呆れられないか、非難されないか。


全く見知らぬ人に対してもそんな恐れを抱き、わたしは素直に話すことはできない。


人から非難されるのが怖い。


本性を見抜かれるのが嫌。


“おまえは勝手な自分本位の人間だ”そう告げられたら……。


そんなふうに葛藤し口を閉ざしたわたしに、神社の方は穏やかに言った。


「大丈夫、ここには私しかいませんし。私はあなたを叱るためにお話をするわけではありません。
あなたの苦しみを少しでも楽にできたらと思うだけです。
私はふだんからあなたとの関わりがあるわけではない。
ですからあなたの抱える悩みを、私情抜きで一緒に考えることが出来るのです」



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