赤い電車のあなたへ



神社の方は話せと強制するでなく、ただ慈愛に満ちた微笑みと視線でわたしを包んでくれた。さながら凪いだ水面のように、穏やかで深くて温かい。


「ありがとう……ございます」


わたしは涙を流しながら、自然と自分の気持ちを口に出していた。


「わたし、好きな方がいるんです」


何も知らない人だから、素直になれる。そういう事もあるんだ。いきなりわたしを非難したりしないし、わたしを知らないから話せる。


「わたしがそのひとを見たのは去年の今ごろ。電車に乗っていた笑顔を見ただけ……でも、わたしは一目で恋に落ちてしまったんです。
その方に会いたい一心で朝露に来て数ヶ月探し続けてきました。
でも……
その人は女性と一緒にこの土地で行方不明になった。
女性を大切にして2人きりでいる。もしかしたらその人と恋人かもしれない。
それを考えただけで虚しくなって、見たこともない女性に邪魔だと嫌な気持ちを抱いてしまうんです。
女性があの人のそばから居なくなっていたらいいのになんて……そんな醜い思いすら抱く。こんな自分がとても嫌で仕方ないんです!」

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