赤い電車のあなたへ
「この神社は“馬姫”と呼ばれているのはご存知でしょうか?」
神社の方に問われ、わたしは素直に頷いた。
「その名前の由来となったのが、神馬に恋したお姫さまのお話なのです」
「え……」
意外なお話を聞いたわたしは、それに興味をひかれた。
馬とお姫さまだなんて、ふつうから考えればありえない。種族が違って決して叶わない恋じゃないかと。
自分とよく似た境遇なので、思わず先を促してしまった。
「そのお姫さまは馬とどうなったんでしょうか?」
「まあ、お聞きください」
神社の方は再度お茶を淹れ直し、わたしに勧めてくれた。
「もともとこの地には湖などなく、この土地を治める城主さまには世にも美しい姫さまがいらして、その噂は千里離れても聞こえたほどだとか。
当然求婚者もたくさん現れたが、父親の城主さまが全て断るほど溺愛されてた。
しかし姫さまはいつか物語で見たように、自分の目で世界を見たいという珍しい望みをお持ちで。
密やかに計画を練った姫さまはある晩にお城を抜け出すことに成功し、近くの川までたどり着いたそうです。姫様は川辺利で珍しく白く輝く人影を見て追いかけたのですが、その人間が一瞬見せた顔に心を奪われてしまったそうです。
城に戻られた姫さまは魂が抜かれたように床に伏してしまい、その男性を恋い慕うばかり。
捜そうにも父上の監視がありそれも出来ぬ。
せめてもの慰めに、と絵師を招きその姿形を写させたそうです」