赤い電車のあなたへ


「すこし寂しいですね。お姫様がどんなに恋しても結果に結びつかなかったんですから」


わたしはそう思った。でも。


「いいえ。私はそう思いません」


神社の方はそう仰って、わたしにこう話してくれた。


「姫が恋したことは決してムダではなかった。
その慕う心が人ならぬ神馬の心を動かし、流した涙が湖となる奇跡を呼んだ。
湖は水不足に苦しむ民を救い、新たな生命をたくさん生み出したと言い伝えられています。
結果が全てではありませんよ。恋い慕って悩み苦しむ。その事自体が意味ある事なのです。
苦しんだ人間はそれだけ得るものがある。
伝承のようにはいかないかもしれませんが、決してムダにはならない。

あなたの糧となる事なのです。だから、ご自分を責めてはいけませんよ。
悩むということは、それだけ迷うこと。迷うことはあなたが優しい証。
人の心を知っているからこそそれを考えて迷う。

思いやりがない人間なら迷わない。どうかその心を忘れないでください」


神社の方はわたしをそう励まして微笑んだ。



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