赤い電車のあなたへ



和菓子屋さんの奥にある和室で、顔や足首の治療をしていただけた。


ただ、足首を見たおじいさんは困った顔をして言った。


「こりゃあ思ったよりひどいなあ。わしじゃどうもできんわ。
おい、ばあさんや。松田先生を呼んどくれんか」


おじいさんが奥に向かって叫ぶと、台所にいたらしいおばあちゃんから返事があった。


「はあいよ。すぐ電話するわ」


バタバタとスリッパが鳴る音がして、ジーコロジーコロという変わった音が聞こえてきた。


何の音だろう?とわたしが首を捻れば、おじいさんが教えてくれた。


「うちはまだダイヤル式の黒電話使ってるだからね。ああやってダイヤルが戻ってから次の数字を回さんといかんだわ」


ダイヤル式の電話なんて想像も出来なくて、わたしは曖昧に頷いた。


「ほい、じいさんや。松田先生は10分もあれば来れるってさ」


おばあちゃんが大きな声で怒鳴りつけるみたいに伝えてきた。


「ほっか! わかった。ありがたいことだ。ばあさんもありがとな!」


「どういたしまして!」

なんか声を張り上げたやり取りが微笑ましくて、わたしは思わず頬が緩んだ。



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