赤い電車のあなたへ





松田先生は60歳を過ぎたおじいちゃん先生で、看護師さんもなく一人でお見えになった。


代々この龍の丘で診療所を開いているらしい。


「どれ、見ようかねえ」


松田先生ののんびりした物言いが、なんだか心地よい。


松田先生は真っ黒な診察カバンを開くと、わたしの患部を診た。


「ちょっと触るから、痛かったら正直に言うんだよ」


白髪のおじいちゃん先生だけど、診察は丁寧かつテキパキとしてくれて。


「筋や骨に異常はないねえ。いわゆる捻挫っちゅうやつだ。湿布を渡すから、一週間毎日取り替えなさい。ただし無理な運動したり負担をかけちゃいかんでな」


「はい、わかりました。ありがとうございます」


骨に異常なしとわかり、わたしは良かったと胸をなで下ろした。骨に何かあれば龍太さん捜しができないもんね。


「あんた旅行者だろ? 誰かに迎えに来てもらえるか?」


松田先生に訊ねられ、わたしは困り果てた。


龍治さんの携帯電話番号はなくしたし、他はみんな携帯電話を持ってない。ここから遠い健太おじさんに連絡する訳にはいかないし。


タクシーを使おうにもお金がない。診察費で500円だけ払ったし。



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