赤い電車のあなたへ
確かわたしは自己紹介をした時、龍太さんに朝露で見たとしか伝えていなかった。
いったいどこまで話せばいいのやら。とっさにうまくは喋れない。
何から何まで詳しく話してしまえば、軽くストーカーと思われてしまわないか。それより、わたしの気持ちを知られてしまうのは最悪だし。
踏ん切りを着けるために思い切って告白すればラクなのだろうけど。わたしの頭にはどうしても例の女性の存在が拭いきれない。
振られる可能性が高いのに、当たって砕ける自信はわたしにはなくて。
全てを知られたら龍太さんから嫌われたり、呆れられたり、気味悪く思われるのもつらい。
だいたい一度電車越しに見ただけの相手。その人に恋して追いかけるように来ただなんて。好きでもない人からそんな事をされたなら、まともな人なら引いてしまうかも。
だから、わたしは全てを話すまいと思い、差し障りない範囲で答えようとした。
「あ……あの。去年の夏に朝露駅で龍太さんを見かけて。印象深かったから、後で絵を描いたんです。なので、お会いしたら絵を渡そうと」
わたしはそう言ってカバンからあの絵を取り出して広げた。
うまい言い方が思いつかなくて、わたしにはこれが精一杯だった。