赤い電車のあなたへ
7月~龍の丘2
龍太さんに二度もお礼を言われ、わたしはただ彼を見上げるしかできない。
「君になら話してもいいかな」
龍太さんは椅子を引き寄せて、わたしの目の前に座った。
ドキッと高鳴る鼓動がますますわたしを落ち着かなくさせる。
「実は、僕も鞠ちゃんを知ってたんだ」
龍太さんの告白がわたしの胸に染み渡るのに、ゆっくりと時間がかかった。
龍太さんがわたしを知ってた?
「え……」
間抜けなことに、わたしはそんなふうに戸惑うしかできない。
「あの時」
龍太さんは話を続け、わたしをまっすぐに見た。
「鞠ちゃんは麦わら帽子を被ってたよね?」
あ、とわたしは思い出した。確かにわたしが着ていたのは、お気に入りの水色のチェックワンピース。そして麦わら帽子を被ってた。
「鞠ちゃんは記憶がないかもしれないけどね、君は飛びそうな帽子を必死に押さえてたんだ。
電車が通る時の風に煽られてて。
なんだか微笑ましくて、思わず笑ってしまったけども」
龍太さんは一度話を切り、ポケットから写真を取り出した。
「なんだか和めたんだ。その後に大変な事が控えてると分かってたから」