赤い電車のあなたへ


「え、それじゃあ……」


わたしが気がついたそれを口に出す事ははばかられた。


今までの話から想像するに、龍太さんが向けていた想いと良子さんの想い。それは決して交わってはいなかったのだと。


もしも2人が真に両想いで“駆け落ち”と言うならば、きっとわたしの入る隙間なんてない。


ああ、とわたしは自分の本当の気持ちに気付く。


悲しくはあるけども、龍太さんが片思いという事実にわたしはホッとしてる。


片思いのつらさは身をもって知ってるのに、わたしはそれを内心喜んでる。わたしはなんてエゴイストな人間なんだろう。


そんな自分を諫めたくて、わたしは自分の腕をギュッと握りしめ痛みを与えた。


けども、自分のエゴが恥ずかしくて龍太さんが見られない。


それを知ってか知らずか、龍太さんは話を続ける。


「良子と貴史は両想いだったみたいだけど、先に話した通りに貴史には親が決めた婚約者がいて、貴史の恋を周りが猛反対した。
2人は人目を避けて逢い続けたのだけど。
大学に入って貴史が入院してから事情が変わったんだ」


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